防衛費9兆円、「今年使う額」と「将来払う額」は違います
目次
導入
2026年度の防衛関係予算は、初めて9兆円を超えました。ただし、この数字を「2026年度に新しい装備へ9兆円を使う」と読むと実態を外します。防衛予算には、過去に結んだ契約の今年分の支払いと、今年結ぶ契約の将来分の支払いが重なっているからです。
重要なのは、総額の大きさだけではありません。装備や施設は製造・建設に何年もかかるため、今年の政策決定が翌年度以降の予算を先に押さえます。防衛費をめぐる選択は、単年度の支出というより、複数年度にわたる支払予定の組み替えとして見る必要があります。
一次情報で分かること
財務省によると、2026年度の防衛関係予算は9兆353億円で、前年度比3.8%増です。SACO関係経費と米軍再編関係経費を除く防衛力整備計画対象経費は8兆8,093億円でした(2026年度、財務省: https://www.mof.go.jp/public_relations/finance/202605/202605g.html )。2026年度予算は4月7日に政府案どおり成立しています(財務省: https://www.mof.go.jp/policy/budget/budger_workflow/budget/fy2026/index.html )。
一方、防衛省が示す同じ整備計画対象経費の「契約ベース」は8兆2,607億円です。その内訳は、2026年度に契約して同年度に払う一般物件費1兆8,798億円と、2027年度以降に払う新規後年度負担6兆3,808億円です。単純計算すると、契約額の77.2%が翌年度以降の支払いです。億円単位の内訳合計は総額と1億円ずれますが、資料は四捨五入により計と符合しない場合があると注記しています(2026年4月8日公表、防衛省: https://www.mod.go.jp/j/budget/yosan_gaiyo/fy2026/yosan_20260408.pdf )。
データの読み方――歳出と契約は別の時計です
「歳出ベース」は、その年度に実際に支払う額です。整備計画対象の物件費6兆4,196億円は、過年度契約の今年分である歳出化経費4兆5,398億円と、今年契約して今年払う一般物件費1兆8,798億円に分かれます。
「契約ベース」は、その年度に始める事業の総額です。一般物件費1兆8,798億円に、新規後年度負担6兆3,808億円を足した8兆2,607億円となります。したがって、歳出額と契約額の差をそのまま「使い残し」や「予算超過」と見ることはできません。片方は現金を払う年度、もう片方は国が発注を決める年度を測っています。
過去の契約から2026年度に支払う4兆5,398億円の内訳を見ると、維持費等が1兆9,746億円で43.5%、装備品等購入費が1兆1,057億円で24.4%、研究開発費が5,506億円で12.1%です。予算増は新装備の購入だけでなく、すでに持つ装備の修理や、過去に始めた開発の支払いも運んできます(同上、防衛省、2026年度)。
なぜそうなっているのか――製造期間が将来予算をつくります
防衛省資料では、主要な契約年限の目安は護衛艦4~5年、航空機3~5年、誘導弾4年程度、施設2~3年です。国は契約年度に代金を全額払うのではなく、その年度の一部を一般物件費として払い、残りを後年度負担として約束します。翌年度になると、その約束の一部が歳出化経費に変わります。
この「契約→後年度負担→歳出化経費」という流れが、数字を生む機構です。2026年度の契約が大きいほど、2027年度以降の予算には過去契約の支払いが先に入ります。反対に、今年の歳出が増えていても、それは今年初めて決めた事業ばかりではありません。
2022年に閣議決定された防衛力整備計画は、2023~2027年度の整備水準を43兆円程度、新規事業の契約額を43兆5,000億円程度としました。また、事業の進捗、実効性、実現可能性を毎年度精査し、必要に応じて見直すと定めています(2022年12月16日決定、防衛省掲載: https://www.mod.go.jp/j/press/wp/wp2024/html/ns003000.html )。契約で先に工程を確保しつつ、毎年度の予算で支払いと実行可能性を点検する設計です。
誰の何が、どの経路で変わるのか
第一に変わるのは、2027年度以降の国の予算編成です。新規後年度負担は、将来年度に過去契約の支払いとして現れます。新しい政策を決める前に既存の支払予定があるため、防衛分野内の新規事業や、一般会計の他の政策との配分余地に影響します。
第二は、防衛産業の生産工程です。契約は製造計画の根拠になりますが、契約額がそのまま納入済み装備や運用能力になるわけではありません。財務省も、減少が見込まれる隊員数で運用できるか、防衛産業の生産能力に照らして現実的か、民生品活用や独自仕様の見直しが十分かを今後の精査項目に挙げています(財務省、2026年5月)。
第三は、自衛隊内の人員配置です。2026年度末の常備自衛官定数は24万7,154人で前年度末と同じですが、陸上自衛隊は292人減り、共同部隊は203人、航空自衛隊は52人、情報本部は25人増えます(防衛省、2026年度)。装備契約を増やしても定員総数は増えないため、どの部門へ人を振り替え、教育・整備をどう担わせるかが実装上の制約になります。
この読みの前提は、契約が大幅に変更・解除されず、計画どおり支払いと納入が進むことです。反証条件は、6兆3,808億円の後年度負担が契約変更で大きく減る、2027年度以降の歳出化経費が計画を下回る、または定員・生産能力の制約を解く制度変更が行われることです。
分からないこと
予算資料だけでは、個々の契約の納入日、価格改定、為替差、契約変更、納入後の稼働率までは分かりません。契約額が大きいことは、能力が同じ速度で増えたことを意味しません。また、費目別の金額には再掲や分野横断の事業があるため、主要項目を単純に足して全体額と比べるのも適切ではありません。
まとめ
防衛費9兆353億円の核心は、総額だけではなく時間差です。今年の支払いには過去の決定が含まれ、今年の決定は将来の支払いを生みます。予算の妥当性を追うには、歳出額だけでなく、新規契約額、後年度負担、納入、稼働、定員を一続きで見る必要があります。
次に何を・いつ・どこで確認するか
次の確認点は、2026年中に予定される国家安全保障戦略・国家防衛戦略・防衛力整備計画の改定です。防衛省の「国家安全保障戦略等」ページと予算概要で、43兆円・43.5兆円の枠、重点7分野、2027年度の契約・歳出計画がどう変わるかを見ます。あわせて、2027年度予算政府案が公表される際には、財務省の「防衛関係予算のポイント」で、歳出化経費、新規後年度負担、常備自衛官定数の3か所を確認すれば、契約が実際の支払いと運用体制へ移ったかを追えます。
参照元一覧
- 防衛省「防衛力抜本的強化の進捗と予算―令和8年度予算の概要―」(2026年4月8日公表、2026年度予算): https://www.mod.go.jp/j/budget/yosan_gaiyo/fy2026/yosan_20260408.pdf
- 防衛省掲載「防衛力整備計画」(2022年12月16日国家安全保障会議・閣議決定、2023~2027年度): https://www.mod.go.jp/j/press/wp/wp2024/html/ns003000.html
- 財務省「令和8年度 防衛関係予算について」(2026年5月公表、2026年度予算): https://www.mof.go.jp/public_relations/finance/202605/202605g.html
- 財務省「令和8年度予算」(2026年4月7日、政府案どおり成立): https://www.mof.go.jp/policy/budget/budger_workflow/budget/fy2026/index.html
本記事は公開データに基づく解説であり、特定の政党・候補者への支持を示すものではありません