米政府閉鎖回避でも長期金利が下がらなかった理由
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閉鎖回避は、なぜ米国債買いにつながらなかったのでしょうか
米下院は2026年9月1日、2027会計年度の暫定予算を含むH.R.6500の上院修正版を370対48で可決しました。上院は可決済みで、ホワイトハウスも署名を勧告しています。大統領が署名すれば、10月1日の政府閉鎖は回避される公算が大きいです。ただし9月2日の確認時点では、署名完了は確認していません。
ところが同日の米10年債利回りは、前営業日の4.75%から4.79%へ上昇しました。30年債も5.25%から5.27%へ上がりました([米財務省、9月1日][1])。
答えは、暫定予算が消すのは目先の「支払い停止」であって、長期金利が見ている「赤字と国債供給」ではないからです。 しかも政府は開いても、新規事業まで自由に始められるわけではありません。
一次情報で分かること
下院の公式記録では、上院修正版への同意は賛成370、反対48、投票せず14でした([米下院事務総長、9月1日][2])。これは個別の2027年度本予算ではなく、短期の継続予算です。
法案第101条は、原則として2026会計年度の支出水準と条件で既存事業を続けます。第106条の期限は、個別の本予算成立か2026年12月11日の早い方です([H.R.6500上院修正版、8月8日][3])。
CBOも、12本の2026年度歳出法にある権限を12月11日まで延長すると説明しています。支出額は短い期間の単純合計ではなく、同じ水準が1年間続くと仮定する年率換算で示します([CBO、8月5日][4])。つまり「72日だけの予算だから、通年歳出が大幅に減る」という読み方はできません。
データは「閉鎖回避」と「財政改善」を分けて読む
閉鎖回避の価値は小さくありません。2025年の閉鎖についてCBOは、4~8週間続く三つの想定で、10~12月期の年率実質GDP成長率を1.0~2.0ポイント押し下げ、後から取り戻せない実質GDPを70億~140億ドルと試算しました([CBO、2025年10月29日][5])。今回の法案は、同じ種類の目先の損失を避ける方向です。
しかし財政改善とは別です。CBOの2026年2月予測では、2026会計年度の財政赤字は1.9兆ドルです([CBO、2026年2月11日][6])。暫定予算は前年水準の支出を続ける制度で、赤字削減策や国債償還策ではありません。
投資家が分けるべきなのは、「政府が支払えるか」という短期の資金切れリスクと、「政府が今後いくら借りるか」という長期の国債需給です。
なぜそうなっているのか――既存支出を守り、新規需要を止める仕組み
新会計年度が始まる10月1日までに歳出権限がなければ、一部の政府活動が止まります。暫定予算は、前年の予算を短期間コピーして空白を埋めます。
ただしコピーには制約があります。法案第104条は、2026年度に資金がなかった事業の開始・再開を禁じます。第109~110条は、州や補助金受給者への期初の高率配分を避け、「最小限」の資金行動を求めます。
国防はさらに明確です。第102条は、新規生産、前年の資金で維持した水準を超える増産、新規事業、多年度調達を原則制限します。政府機関は既存契約を支払えても、2027年度の新しい装備・IT・研究開発を通常どおり立ち上げにくいのです。
「政府閉鎖を避けた」ことは既存需要の保全であり、「政府需要が増える」こととは同じではありません。
市場にどう効くのか
米国債への第一の経路は、暫定予算可決 → 職員給与、調達代金、政府サービス、統計公表の停止リスク低下 → 短期のGDP・企業売上の下振れを抑える、です。景気の尾を一つ消すため、安全逃避の国債買いを弱め、金利を上げる方向に働く場合もあります。
第二の経路は、前年並みの支出継続 → 財政赤字と国債発行期待を直接減らさない → 長期債の期間プレミアムを下げにくい、です。9月1日に10年債が4.79%へ上がった事実は、閉鎖回避だけで長期金利が下がるとは限らない例です。ただし同日は米・イラン攻撃による原油高とインフレ懸念もあり、金利上昇を暫定予算の効果とは断定できません。APはS&P500が0.7%下落した主因に原油高と金利上昇を挙げました([AP、9月1日][7])。
日本からは三つを見ます。
- 米長期金利が高止まりすれば、日米金利差を通じてドル円にドル高・円安方向の圧力が残り得ます。
- 高い割引率は、将来利益の比重が大きい成長株、REIT、長期固定金利で借りる事業の評価と資金調達費に響きます。
- 国防・インフラ・IT・研究開発では、既存契約の売上は守られても、新規契約、増産、設備投資の開始は遅れ得ます。
前提は大統領が現行案に署名することです。反証条件は、12月11日前に赤字を減らす本予算が成立する、原油安やインフレ鈍化とともに長期金利が持続的に低下する、または例外措置で新規事業・増産資金が追加されることです。
自分の資産・事業で確認すべきなのは「政府関連か」ではなく、既存契約で稼ぐのか、新規予算と増産で伸びるのかです。暫定予算は前者を守り、後者を待たせます。
まだ分からないこと
9月2日時点で大統領署名は未確認です。また、9月1日の金利上昇のうち暫定予算が占める割合は分離できません。原油、金融政策、成長率、国債需給が同時に動くためです。
12月11日までにどの本予算が成立し、国防と非国防の支出水準がどうなるかも未決定です。したがって、政府閉鎖回避を長期金利低下や政府調達株全体の追い風と決めつけることはできません。
次に何を・いつ・どこで確認するか
最初はホワイトハウスの「Briefings & Statements」でH.R.6500の署名日と成立法番号を確認します。署名前なら、10月1日の閉鎖回避はまだ確定ではありません。
次は2026年10月1日です。2027会計年度の開始時点で、OMBの政府機関向け予算執行資料と各省の調達情報を見ます。既存契約の継続と、新規事業の延期を分けます。
最重要日は12月11日です。GovInfoまたはCongress.govで、個別歳出法、包括歳出法、再度の暫定予算のどれが成立したかを確認します。見る場所は支出総額だけでなく、国防の新規生産・増産、交通インフラの延長、新規IT・研究開発の開始権限です。
12月11日に「閉鎖したか」だけを見るのでは足りません。支出水準、赤字を減らす措置、新規事業の解禁を同時に確認して初めて、米国債と政府需要への判断を更新できます。
参照元一覧
- [1] 米財務省「Daily Treasury Par Yield Curve Rates」(2026年8月31日・9月1日)
- [2] 米下院事務総長「Roll Call 286, H.R.6500」(2026年9月1日)
- [3] 米国議会・GovInfo「H.R.6500上院修正版」(2026年8月8日)
- [4] CBO「The Continuing Appropriations and Extensions Act, 2027」(2026年8月5日)
- [5] CBO「2025年政府閉鎖の定量分析」(2025年10月29日)
- [6] CBO「The Budget and Economic Outlook: 2026 to 2036」要約(2026年2月11日)
- [7] AP「How major US stock indexes fared Tuesday 9/1/2026」(2026年9月1日)
- [8] OMB「Statement of Administration Policy, Senate Amendment to H.R.6500」(2026年8月3日)
[1]: https://home.treasury.gov/resource-center/data-chart-center/interest-rates/TextView?field_tdr_date_value=2026&type=daily_treasury_yield_curve [2]: https://clerk.house.gov/Votes/2026286 [3]: https://www.govinfo.gov/content/pkg/BILLS-119hr6500eas/pdf/BILLS-119hr6500eas.pdf [4]: https://www.cbo.gov/publication/62643 [5]: https://www.cbo.gov/publication/61823 [6]: https://www.cbo.gov/topics/economy/economic-effects-fiscal-policy [7]: https://apnews.com/article/61f03262bb5dfa1c414c4fb7be40772e [8]: https://www.whitehouse.gov/wp-content/uploads/2026/08/SAP-Senate-Amendment-to-H.R.-6500.pdf
本記事は情報提供を目的とした解説であり、投資助言ではありません
本記事は公開データに基づく解説であり、特定の政党・候補者への支持を示すものではありません